依佐美送信所

愛知県刈谷市(旧:碧海郡依佐美村)の依佐美送信所は日本初の対ヨーロッパ無線通信施設として、IEEEよりマイルストーンに認定されました。

依佐美送信所とは?

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基本構造

商用発電機と高周波発電機

 一般的な商用の発電機は現在でも電力を生み出す装置として使われており、50Hzや60Hzという周波数で発電されています。一方、電波を発信するための発電機は、こうした商用発電機では周波数の値が低いため、さらに高い周波数を生み出す「高周波発電機」が必要となります。

 依佐美送信所が開設されようとした頃は、後に電波発信に不可欠となる真空管は登場したばかりで大出力の実用化がされておらず、半導体などの電子素子もない時代でした。そのため当時、遠方へ強力な電波を発信するためには発電所並みの「高周波発電機」を必要としたのです。また、ヨーロッパなど日本から遙か遠方へ届くための電波は「長波」が適しており、その周波数は17.4kHzが必要で、出力も相当大きな数値が求められたのです。

 当時、17.4kHzを実用化していたのは、アメリカのアレキサンダーソンの高周波発電機で、その発電機自身で必要な周波数を生み出すことができますが、出力が200kWで依佐美送信所が求めるには不足であるとして見送られました。そこで、送信所が求めるスペックを提供できたのが、ドイツのテレフンケン社設計、AEG社製造の高周波発電機でした。
 この高周波発電機では必要とされる17.4kHzは出ませんが、逆に600kWという大出力が可能で、周波数の変動も少ないことが評価されました。また、周波数は5.8kHzでしたが、これをトリプラーと呼ばれる装置で周波数を増加させて、通信に必要な17.4kHzを生み出したのです。

 高周波発電機の周波数の発信は、巨大なモーターの固定した外周部分「固定子」に電機子コイルと励磁コイルがあり、「誘導子」と呼ばれる内部の回転する部分に磁極とスロットを有しています。磁極のある誘導子が回転すると、固定子の電機子コイルとの間で磁気抵抗の変化により起電力が発生し周波数を生み出すのです。

※励磁コイル=コイルに電流を通すことで、磁束を発生させる装置
※磁束=磁力線の総量(電気回路の電流に相当)

 Cの励磁コイルに電流がながれると、Bの誘導子(回転子、ローター)が磁石になります。誘導子が回転し、固定子の電機子コイルAに磁極の変化により誘導電流が流れます。磁極の数と誘導子の回転数で、発生する誘導電流(交流)の周波数が決まります。
 依佐美送信所の高周波発電機(交流発電機の一種)は、磁極が256、回転数1360回転/毎分ですから、約5800ヘルツの高周波電流になります。
    計算式 256×1360/60
 これをトリプラー(逓倍回路により3倍の周波数にしたものが、長波通信用の電波で、依佐美送信所の場合、17400ヘルツ(1.74kHz)です。

堅牢精密なドイツ社製、高周波発電機

 1927年(昭和2年)テレフンケン社の送信機などの機械類がドイツを出港し、神戸を経て依佐美へ。機械の組み立て、据え付けのためドイツ人技師も同行しました。送信所の建設費用550万円、うち送信機などの機械類に112万円かかりました。(※当時の刈谷市の亀城小学校の新築校舎建設費は15万円あまり)
 高周波発電機の固定子の外枠は鋳鉄製で、その内側に励磁コイルと出力コイルを巻いた鉄板が取り付けてありました。内側の回転子は256の磁極を持ち、出力コイルに5800Hzの高周波電力を発生させたのです。